「私、センスないので」

意外かもしれませんが、この言葉を芸大・美大の入学したばかりの学生からさえ聞くことがあります。社会人向けのワークショップなら、なおさらです。絵を描く前に、企画を出す前に、歌をつくる前に、多くの人がまずこう宣言します。自分は「つくる側」の人間ではないと。

しかし、創造性は、生まれつきの才能ではありません。科学的には後天的に磨くことができるものです。

また、創造性を育てることは、心の健康にまで効くことが近年の研究で次々と明らかになっています。この記事では、「センスがない」と思い込んでいるあなたのために、創造性の科学の最前線と、今日から始められる5つの習慣を紹介します。

想像と創造の違い

この記事を掲載しているメディアの名前は「SOUZOU」です。想像(imagination)と創造(creation)という2つの意味が込められています。実はこの2つの関係こそ、創造性を理解する鍵です。

想像とは、「まだ目の前にないもの」を心に思い浮かべる力のことです。一方で、創造は、思い浮かべたものに「形」を与える力のことです。心理学では、創造性は一般に「新しくて(novel)、かつ役に立つ・意味のある(useful/meaningful)ものを生み出す能力」と定義されます。

ポイントは、想像だけでは創造にならず、手を動かすだけでも創造にならないこと。頭の中の映像と、手の中の素材とのあいだを何度も往復すること。それが創造の正体です。だからこそ、創造性は「一瞬のひらめき」ではなく「習慣」として鍛えられるのです。

創造性の4Cモデル

創造性の4Cモデルの図解。mini-c(学びの創造)、little-c(日常の創造)、Pro-C(専門家の創造)、Big-C(歴史的な創造)の4段階を階段状に示し、すべてはmini-cの小さな気づきから始まることを表す

「創造的な人」と聞いて、ピカソや宮崎駿を思い浮かべた人は多いと思います。実はその連想こそが、私たちを「つくる側」から遠ざけている原因の一つです。

創造性研究の代表的な枠組みに、心理学者カウフマンとベゲットが提唱した「4Cモデル」があります(Kaufman & Beghetto, 2009)。創造性には4つのレベルがあるという考え方です。

mini-c (学びの創造): 自分にとって新しい気づきや解釈。「この色の組み合わせ、いいかも」と気づく瞬間
little-c (日常の創造): 日々の暮らしの中の工夫。冷蔵庫の残り物での献立、仕事の資料のひと工夫
Pro-C (専門家の創造): 職業レベルの創造。デザイナーの仕事、研究者の論文
Big-C (歴史的な創造): 歴史に残る偉業。ピカソはここ

重要なのは、すべての創造がmini-cから始まるということ。ピカソも最初は「この線、面白いかも」から始めたのかもしれません。「センスがない」と言うとき、私たちはBig-Cと自分を比べていますが、本当に比べるべきは昨日の自分です。

日本人は「世界一クリエイティブ」なのに、そう思っていない

Adobeの5か国調査の図解。世界からの評価では最もクリエイティブな国1位が日本、都市1位が東京。一方で自分をクリエイティブだと考える日本人は19%で調査国中最下位という自己評価とのギャップを示す

「センスがない」という問題には、実は日本ならではの、もっと大きなねじれがあります。

アドビシステムズが世界5か国(日本・米国・英国・ドイツ・フランス)の5,000人を対象に行った意識調査「State of Create」で、驚きの結果が出ました。

「最もクリエイティブな国」として最も多く挙げられたのは日本(36%)で、「最もクリエイティブな都市」も東京(30%)が1位だった。しかし、自分自身をクリエイティブだと考える日本人はわずか19%で、調査対象国中最低だった。
出典:ITmedia NEWS「『最もクリエイティブな国・都市』は日本・東京 でも日本人は自信がない」(2012)より要約

世界は日本を「創造性の国」と見ているのに、当の日本人だけが、自分をクリエイティブだと思っていない。この傾向はその後の各社や研究論文の追跡調査でも繰り返し確認されています。

この理由として、創造性のハードルを「Big-C(歴史的な創造)」に置きすぎている可能性があります。日本ならではの丁寧な弁当のおかず配置も、限られた間取りを活かす収納の工夫も、世界が「日本的な創造性」として驚嘆するものの正体は、実は無数の「little-c(日常の創造)」の集積です。あなたもすでに、世界基準ではとっくに「つくる側」なのかもしれません。足りないのは才能ではなく自覚だと、このデータは教えてくれています。

科学が見つけた「創造性が高まる瞬間」

では、創造性はどうすれば高まるのでしょうか。近年の研究は、意外なほど具体的な答えを出しています。

歩くとアイデアが増える

スタンフォード大学の実験の図解。歩くと創造的なアイデアの産出が座っているときと比べて平均60%増加することを、歩く人のピクトグラムとともに示す

スタンフォード大学のオペッツォとシュワルツは、歩くことと創造的思考の関係を4つの実験で検証しました。結果は劇的でした。

歩いているとき、人の創造的なアイデアの産出は平均で約60%増加した。屋外でも、ルームランナーの上でも効果は見られ、歩き終えた直後にも効果は持続した
出典:Stanford Report「Stanford study finds walking improves creativity」(2014)より要約(原論文:Oppezzo & Schwartz, 2014)

会議室でうんうん唸るより、15分の散歩。これは精神論ではなく、実験データに裏づけられた技術です。

この研究は日本のメディアでも繰り返し紹介されており、例えばプレジデント・オンラインは「判断に迷ったら歩くべき理由」として、ウォーキング中に8割超の人で創造性が高まったという実験の詳細を解説しています。速報系メディアのGIGAZINEが発表当時にいち早く取り上げたことでも話題になりました。「歩くと考えが進む」という古今の作家や哲学者の習慣は、日本でも科学の言葉で追認されつつあります。

「ぼんやり」は創造の準備時間

シャワー中や散歩中にアイデアが降ってくる経験は、誰にでもあるはず。脳科学では、何もしていないときに活性化する脳のネットワーク(デフォルトモード・ネットワーク)が、記憶の断片を組み替え、アイデアの素材を仕込んでいると考えられています。

スマホで埋めがちな「待ち時間」や「移動時間」は、実は創造性の仕込み時間。退屈は、創造の入り口なのです。

「量」が「質」を連れてくる

創造性研究の古典的な知見に、「優れたアイデアの数は、生み出したアイデアの総量に比例する」というものがあります。ベートーヴェンも、ピカソも、エジソンも、傑作の陰に膨大な「駄作 (と呼ばれるもの)」を残しています。最初から名作を狙うのではなく、とにかく数を出すことを意識してみましょう。

つくることは、心の健康を支える? メンタルヘルスとの意外な関係

創造性は、仕事などで欠かせないことで以上に、心の健康を支えるということが、データで示されつつあります。

制作45分でストレスホルモンが減少

米ドレクセル大学の研究チームは、参加者に45分間の自由な制作(コラージュ、粘土、ペン画)をしてもらい、前後で唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)を測定しました。

参加者の約75%でコルチゾール値が低下した。そしてこの効果は、美術経験の有無とは関係がなかった
出典:Drexel University「At Any Skill Level, Making Art Reduces Stress Hormones」(2016)より要約

「うまい・下手」は、つくることの効能と無関係。この発見は、「センスがないから」と手を止めているすべての人への、科学からの招待状です。

小さな創造は、翌日の幸福を連れてくる

ニュージーランドのオタゴ大学の研究チームは、若者658人に13日間の日記をつけてもらい、日々の創造的活動と感情の関係を分析しました。その結果、創造的な活動をした日の翌日には、活力や幸福感(フラーリッシング)が高まるという関連が見つかりました(Conner, DeYoung & Silvia, 2016)。料理でも、編み物でも、落書きでも、小さな創造の習慣は、翌日のあなたへの贈り物になります。

AIは創造性の敵か、味方か

Science Advances掲載の実験の図解。生成AIの利用で個人の創造性は上がる一方、AIに頼った作品どうしは似通い、全体の多様性は下がるという二つの効果を対比で示す

「これからはAIがつくる時代。人間の創造性なんて要らなくなるのでは?」

クリエイティブにかかわるものなら誰しも、このような不安を感じたことがあると思います。最新の研究は、この問いにも興味深い答えを出しています。

ロンドン大学とエクセター大学の研究チームは、約300人に短編小説を書いてもらう実験を行いました。一部の参加者は生成AIからアイデアの提案を受けられます。結果は下記です。

AIのアイデア提供は、個々の書き手の作品の創造性評価を高めた。特に、もともと創造性テストの得点が低い書き手ほど恩恵が大きかった。しかしその一方で、AIの助けを借りた作品群は互いに似通っており、全体としての多様性は低下した
出典:Doshi & Hauser「Generative AI enhances individual creativity but reduces the collective diversity of novel content」Science Advances (2024)より要約

つまり、AIは個人の創造の底上げには効きますが、皆が同じAIに頼ると、社会全体の作品は「似た者同士」になってしまいます。

AI時代に価値が上がるのは、AIの平均的な提案に「自分」を混ぜられる人。あなたの偏った好み、あなたにしかない失敗の経験など、AIが持っていない自分を混ぜられる人は強いです。AIは創造の敵ではなく、「あなたらしさ」の価値を高めてくれる存在なのです。

今日から始める「つくる人」になるための5つの習慣

今日から始める「つくる人」になるための5つの習慣のチェックリスト。mini-c日記を1日1行、考えごとは歩きながら、週1回の下手の日、量を出してから選ぶ、AIには最初の10分だけ手伝わせる

ここまでの科学的知見を、実践に落とし込みましょう。

習慣①:「mini-c日記」をつける(1日1行)

今日、自分にとって新しかった気づきを1行だけ記録してみましょう。印象に残ったことであれば、「夕焼けが思ったより赤かった」などの一文でも十分です。創造性の筋トレは、気づきの筋トレから始まります。

習慣②:考えごとは、座らずに歩く

企画を考えるとき、悩みを整理したいとき、まず15分間歩きながら考えてみましょう。スタンフォードの実験が示したとおり、脚はもう一つの脳です。

習慣③:週に1回、「下手の日」をつくる

上手にできる必要のない制作の時間を、週1回15分だけ確保しましょう。落書き、鼻歌、粘土、何でもOK。ドレクセルの実験を思い出してください。効くかどうかに、腕前は関係ありません。

習慣④:量を出してから、選ぶ

アイデアが必要なときは、「良い案を1こ」ではなく「ほんのちょっと良い案を10こ」を出してみましょう。質は量の中から生まれていきます。

習慣⑤:AIには「最初の10分」だけ手伝わせてみる

生成AIを使うなら、発想の呼び水として最初だけ借りて、その後は自分の手で育ててみましょう。Science Advancesの研究が示した「均質化の罠」を避ける、いちばん簡単な方法です。仕上げに必ず「自分の経験からしか出てこない要素」を1つ混ぜましょう。

よくある質問(FAQ)

よくある質問をまとめました。ぜひ参考にしてみてください。

創造性は生まれつきの才能ではないのですか?

研究の世界では、創造性は固定的な才能ではなく、環境と習慣で伸びる能力と考えられています。創造性を4段階で捉える「4Cモデル」では、誰もが日常の小さな気づき(mini-c)から創造を始められるとされています。

創造力と想像力はどう違いますか?

想像力は「まだ存在しないものを心に思い浮かべる力」、創造力は「思い浮かべたものに実際にかたちを与える力」です。両者の往復によって、新しくて意味のあるものが生まれます。

大人になってからでも創造性は伸ばせますか?

伸ばせます。歩行で創造的なアイデア産出が約60%増えたスタンフォード大学の実験は大人が対象ですし、日常的な創造活動が翌日の幸福感を高めるという研究も成人を含む若者対象です。年齢よりも、日々の習慣が効きます。

絵が下手でも、つくることに意味はありますか?

あります。45分の制作でストレスホルモンが減ったドレクセル大学の実験では、効果は美術経験の有無と無関係でした。心の健康という観点では、上手さは問われません。

AIを使うと創造性は落ちますか?

個人レベルではむしろ助けになるという実験結果があります。ただし、AIに頼った作品は互いに似やすくなるため、AIの提案に自分の経験や好みを混ぜることが、独自性を保つコツです。

日本人は創造性が低いというのは本当ですか?

むしろ逆です。アドビの5か国調査では「最もクリエイティブな国」の1位は日本、「最もクリエイティブな都市」の1位は東京でした。低いのは創造性そのものではなく自己評価で、自分をクリエイティブだと考える日本人は約2割と調査国中最低でした。